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「学びをデザインする」 オフィス・ワーカーのWell beingを育む試み
2024.10.01
子供のころ、週明けに学校に行くのが待ち遠しくて早起きしてしまう。目的は昨日テレビで見たマンガの話を友達とするため。あるいは先週ちょっと上手くなった遊びがまた同じようにできるかを確かめるため。わくわくした気持ちで学校に向かったことを思い出します。大人、社会人になり会社勤めをするようになって、いつしか意気揚々とした月曜日は数える程度になっていました。コーチングに出会うまで…。
コーチングでは、最初にパーソナルファンデーション(自己変革)に取り組みます。一個人として盤石なファンデーション(基盤)を持つことは、日々起こる問題や事象に左右されたり一喜一憂したりすることなく、望む状態を作り、より効果的に目標を達成することができるようになります。
私は、会社員として仕事上、毎年多くの目標を持ち日々働いています。家よりも長い時間職場で過ごし、家族よりも長い時間を同僚たちと過ごしています。同じ時間ならご機嫌に過ごしたい。子供のころのような待ち遠しい月曜日、発見や進歩でわくわくする日を増やしていこうと考えたのが私にとってのWell-being*の始まりでした。
自分にとってのWell-beingを探求し、整えていくうちに職場で意気投合する仲間ができました。そして、コーチングのサークルを結成し、コロナ渦にはWell-beingのためのコミュニティをつくり、活動をしてきています。現在、道半ばですが、社内とはいえコミュニティ登録者も200名を超え、活動も定着し参加者の変化が見られるようになったので、今回、この取組みをまとめてみようと考えました。
* Well-being(ウェルビーイング)とは、身体的・精神的・社会的に健康で満たされた状態を。幸福感や生活の質が高く、バランスの取れた充実した生活を送っていること。(ChatGPT)
1.「学びをデザインする」とは?
ここでは、「学びをデザインする」とは、ある目的を持ち、特定の状況や環境下で自発的な気づきや学びを呼び起こすアプローチと定義します。
厳密に「学習デザイン」と言った場合、学習者が効果的に知識やスキルを習得できるように、学ぶプロセスや環境を計画・設計することで、教育工学や教育心理学の視点を取り入れながら、どのように学習活動を構築するか、どの教材や技術を用いるか、どのような評価方法を用いるか、などを考慮した学習を促進する計画全体のことです。そして、次の要素が「学習デザイン」に含まれます。
1学習目標の設定、2教材や学習資源の選定、3学習活動の計画、4学習環境の設計、5評価の方法
今回の取り組みでは、コーチング的アプローチとして、活動環境の設定と環境としての「問いかけ」に着目しているので、「学びをデザインする」としています。「問いかけ」は、自発的な気づきや学びを呼び起こす質問を行うことで活動の一環として活動中、または活動後に行います。「問いかけ」の重要性とポイントについては次の章「問いのデザイン」で紹介します。本研究では、きっかけと問いを含む環境をつくり、体験を通して気づきや自発的学びが引き起こされることを期待したアプローチを取り、直接的に情報を伝える形とは画一的な試みを行っています。
また、Well-being という個々の価値観に依存する目的での学びは、個々人による多様性を含むため、気づきと学びのプロセスを個々の中で促進して体得していくのが適切だと考えることからもこのような形にしています。
2.「問いのデザイン」
この研究活動を進めるにあたって参考にした安斎勇樹氏の書籍、『問いのデザイン』、『問いかけの作法』より、創造的な対話を生む問いの重要性とポイントについて紹介します。
安斎勇樹氏によると、対話における「問い」が単なる情報収集の手段ではなく、思考を深め、相手との関係を豊かにする重要な役割を果たすと述べています。彼は、適切な問いを投げかけることで新たな気づきを促し、創造的な対話や協働を生み出す力があることを強調しています。また、「問い」は固定された結論に導くものではなく、オープンで探究的な態度を保つことが対話の質を高める鍵だとしています。
安斎勇樹氏は、問いをつくる上で重要なポイントとして、以下の点を挙げています:
1. オープンな問い:結論を固定せず、相手の考えや感情を引き出し、新たな視点を生む問いが重要です。
閉じた質問(はい・いいえで答えられるもの)ではなく、探究的な問いを投げかけることが対話を豊かにします。
2. 共感と理解を伴う問い:相手の背景や立場を理解し、その人に合った問いを投げかけることで、対話が深まります。
共感を持って相手に関心を寄せることが大切です。
3. 問いのタイミングと文脈:適切なタイミングで問いを投げかけることが対話の流れをスムーズにします。
文脈を無視した問いでは、対話が途切れたり誤解を生んだりする可能性があるため、状況に応じた問いを意識することが求められます。
4. 問いの繰り返しと深掘り:一度の問いで終わらせず、さらに深く掘り下げるために追問を行うことで、
相手の思考を促進し、より深い対話が可能になります。
これらのポイントを通して、安斎氏は問いが対話や創造性の源泉であり、そのデザインが重要であると述べています。
活動では上記を踏まえて、「問いかけ」を行ってみています。
3.実施活動の紹介
すべての活動は職場の立地条件を活かしランチタイムを利用して実施しています。
そして、質問、「問いかけ」は、活動中または事後にスラック・チャネル内で行っています。
①コミュニティ・チャネルへの週一回投稿 食・生活習慣・マインドセットなどWell beingへの情報共有
目的:ヘルスケア、Well being、コーチングに関する周知
環境:社内スラック・チャネル、文字と関連画像
対象:コミュニティ参加者全員(コミュニティは自由参加)
具体例:玄米の安全な炊き方、食品表示の見方、腰痛改善ウォーキング、5分間ストレッチ、書籍紹介、マインドフルネス瞑想法など
②プラネタリウムでのパワーナップ(積極的仮眠)週に1回開催 所要時間30分 アロマオイルと付箋を準備
目的:仮眠を取ることで食事による眠気や午後からのパフォーマンスを保つ。寝不足解消
環境:プラネタリウムの絶対暗闇、リクライニングシート、アロマエッセンシャルオイルによる嗅覚刺激で副交感神経優位に誘導
対象:コミュニティ内申込者(のべ参加者数 78名)
問いの意図:身体的な感覚に意識を向ける
問いの例:「どんな体験でしたか?」 「いつもの午後とはどんな違いを感じましたか?」
③ランチ前ウォーキング 週に1回開催 所要時間20-30分 季節に合わせて5種コース 2-3km
目的:代謝と血流を向上させて食事の消化力を上げる。デスクワークによる運動不足やストレスの解消。
環境:1 オフィスビル外周アップダウン2kmコース、2 深緑浴2.5kmコース、3 寺院境内黙歩2kmコース、4 バラと深緑3kmコース、5 ヒルズ地下道2kmコース
対象:コミュニティ内申込者 (のべ参加者 46名)
問いの意図:身体的な感覚、自然や環境に意識を向ける
問いの例:「体の状態はどんな感じですか?」
「普段と違う感覚があるとしたら、それはどんな感じですか?」
「どんな風景が印象に残りましたか?」
④バランス健康食ランチツアー 不定期開催 所要時間:60分 8店舗(デリ含み 1200円以下)
目的:オフィス近くで野菜が豊富にあり栄養バランスが取れ、美味しく健康的な食事ができる店を知る。デスクから離れる。
環境:各店舗ともオフィスより10分圏内
対象:コミュニティ内申込者(のべ参加者数 36名)
問いの意図:食事に対する価値観を聴く
問いの例:「普段は食事でどんなこと心がけていますか?」
「在宅ワークの時はどうしていますか?」
⑤読書会 グループ ランチョンセッション 所要時間:60分
目的:仕事・職場を離れたトピックでの社内交流。新聞、経済、情報誌以外の活字に親しむ。心の栄養。
環境:オフィス内ミーティングルームとオンライン ハイブリッド開催
対象:コミュニティ内申込者(参加者数 8名)
事例1:『東京ハイダウェイ』* 読後シェア会 「私のハイダウェイ・ランチョン」
問いの意図:価値観や趣向を共有する。背景や多様性への気づきを促す
問いの例:「ご自身が印象に残ったフレーズやシーンをそれぞれシェア(共有)してもらえますか?」
「自分にとってのハイダウェイ(隠れ家)の条件って何ですか?」
『東京ハイダウェイ』* 古内一絵著
⇒オフィス・ワーカーの心の機微を題材にした短編小説。登場人物それぞれが多少の光を見出して心を軽くするストーリー。
4.参加者に見られる変化
対面でのアクティビティを開始して現在1年が経過したところです。
年末にアンケート調査を実施して具体的な報告をまとめる予定ですが、以下のようなスラック投稿や声が入るようになり、参加者の変化を認識しています。
「主食を玄米に変えました」 「紹介されたランチのお店よく使うようになりました」
「毎週プラネタリウムに通って仮眠しています」
「アロマオイルを買って在宅ワークのとき、使っています」
「ひと駅前で降りて通勤するように変えたよ」
「食事はなるべくカラフルに! って考えるようになりました」
「お弁当の中身でさすがにこれはケミカルでやばそうっていうのは残すようになった。味がちょっとわかるようになったかも」
「アクティビティが楽しみで出社日合わせた」
「ちょっとのことでリフレッシュできるってわかったから、30分に一回は立つようにしてるよ」
「のぼりだけはエスカレーターやめて階段使い始めた」
「自分にいいことしてる感覚がちょっとうれしい」 など、同僚たちから自発的に声をもらっています。
まとめ
今回は中間報告としてのシェアになりますが、上記で述べたように様々な行動変化が起こされています。これはアドバイスによって起こされた行動変容ではなく各自の中で選んだ変化ということがとても興味深いです。自身の中で何をきっかけに行動変化が起き始めたのか、今後も活動を継続してどのような学びや変化が起きていくか追跡して調査を行う予定です。また更に、問いの投げかけとして問いをリスト検証し、より効果的な学びを呼び起こす問いをデザインしていきます。
ウェルビーイングと仕事の関係性は非常に重要で、相互に影響を与え合います。職場でのウェルビーイングが高いと、より生産的で、創造性が高まり、仕事へのモチベーションも向上します。引き続き、個々のウェルビーイングを育む力をサポートしていきます。
参考文献
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