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自律的な人材・組織を創る

2022.05.01

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日々、多くのリーダー層の方々と接する中で、最近よく聞く課題意識があります。
「メンバーの主体性をどの様に引き出すか?」「自律的に動くチームを創るにはどうすればよいか?」という課題です。
これらの課題意識は昔からあるものの、特に最近強くなってきているように感じます。
その1つには今のリーダー層(管理職世代)と若手層の間に大きな価値観の違いがあり、リーダー自身が受けてきたやり方が通用しなくなっているという点も大きいように感じています。

ここでは、私自身の経験談も踏まえながら、自律的な人材・組織を創るためのポイントを考察していきます。

1.自律性を高めるために必要な要素とは

どうすれば主体性・自律性を高められるのか?
必要な要素は割とシンプルに捉えられるのではないかと考えます。

・自分が本当にやりたいまたは達成したいと思える目標
・自分はできると思える認識(本当にできるかどうかは別の話)
この2つが揃えば、人は放っておいても自律的に動くのではないでしょうか。

書籍「チームが自然に生まれ変わる」の中でも「内側」から人を動かす原理として、

①絶対にこれを達成したいと思うゴール、
②やれる気しかしないというエフィカシー(自己効力感)の2点があげられています。

ご自身の過去の経験を振り返っても思い当たるのではないでしょうか?
大好きな趣味や勉強でも大好きな科目は何も言われなくても没頭して取り組んでいましたよね。また嫌いな勉強でも、どうしても合格したい学校があれば親から勉強しろと言われなくても勉強に取り組んでいたことでしょう。
一方で、非常に魅力的な内容や目標でも、自分自身がそれに関する知識・経験が全くなかったり、非常に大きすぎる目標で達成イメージが全くつかない場合は、動き出すことを躊躇したり、単なる憧れて終わってしまったものもありますよね。

そう考えると、自律性が高まらない要因はこの2つのいずれかが不足しているからではないでしょうか。

2.心から達成したいと思える目標を設定するには

個人的な目標であれば、比較的設定しやすいですが、ビジネスではそう簡単にいかない点があります。なぜならば、目標は企業全体の経営目標から組織の目標・個人の目標へとブレークダウンされてくるからです。つまり、前提として完全に自分で自由に決められる訳ではなく、ある一定与えられた目標があります。
そのため、本当はやりたくないのに上から言われた目標だから仕方なくやっている、という「やらされ感」が醸成されがちです。

このような状況から、企業においては自律性を高める要素のうち、特に目標設定が難所になると感じています。
では、その前提がある中でも、目標を心から達成したい目標に近づけるために、私たちにはどのようなことができるでしょうか?

(1)メンバーも含めて、一緒に考える
企業規模や組織文化にも依存しますが、そもそもの組織目標を考えるプロセスにメンバーも巻き込むことは有効です。心理学では「コミットメントと一貫性」と言って、人間は自分の価値観や自分の言ったことに沿った行動を取りたいという無意識の心理が働くことが証明されています。そのため、考えるプロセスに巻き込み、その目標は自分が考えて設定した目標となることで、達成に向けて動こうとする心理が働きやすくなります。
組織目標の設定プロセスに巻き込めない場合も、個人目標に落とし込む際にはリーダーが一方的に示すのではなく、本人に考えてもらうプロセスを組み込みましょう。

(2)なぜその目標なのかを理解・納得できるようにする
設定プロセスに関与してもらえない場合は、「なぜその目標なのか?」の背景や目的、つまりWHYをしっかりと伝え、理解・納得してもらうことが重要だと考えます。しかしながら企業においては最終結論だけが伝えられ、その結論に至ったプロセスや背景が伝えられないことがしばしばあります。私自身もそういう経験をしたことがあります。
もちろん、全ての情報やプロセスを開示することができない場合もありますが、可能な限り開示をして納得感を高めることは重要です。

(3)個人の目標とのアラインメント(整合性)を取る
これは私自身がよくやっていたことですが、その業務自体が心からやりたいと感じるものでない場合も、それをやることで自分個人として実現したい夢やキャリアビジョンにどうつながるか、という点がしっかりと結びつけられると自然と行動に移せるようになります。なぜなら、個人の夢や自身のキャリアビジョンは心から達成したいと考えているからです。自分自身で結び付けられる人ばかりではないので、その場合はリーダーがメンバーとの対話の中で紐づけをすることで自律性を高めることにつながるかもしれません。

最近、箱根駅伝で成果を出し続けている青山学院大学の原監督もこの目標設定を非常に重視しているそうです。原監督が学連選抜の監督をされた時のお話をTVでみたことがあるのですが、まずやったことは「チーム全員で議論して目標を決めること、その後、チーム全員で議論してチーム名を決めること」だったそうです。それによって、チームの一体感が生まれたとともに、自律性も高まり、選手側から集合練習の追加を申し出てきたりもしたそうです。結果、毎年最下位争いをしていたチームは、その年4位という好成績を収めたそうです。

3.「できる」と思えるためには

達成したいと心から思える目標が描けても、達成するイメージが全く沸かないとなかなか行動には移せません。では、自分でも「できる」、という認識を持つためには何が必要なのでしょうか?

書籍「普通の会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉」の中で原監督はこのように述べています。

組織の進化には4つのステージがある。
ステージ1 命令型:監督の命令で全員が動く。部員に知識や技術を細かく教えていく段階
ステージ2 指示型:学生の代表者に指示し、代表者が部員に伝えて動く段階
ステージ3 投げかけ型:方向性を代表者に投げかけ、代表者が部員と一緒に考えて動く段階
ステージ4 サポーター型:部員の自主性とチームの自立を求め、サポート役に回る

このステップを見て改めて気づくことは、考えるために必要な最低限の知識や考える意識・習慣がない中でいきなり「自律的に動いて」、と言っても無理だということです。そのため、自律的に動く人材を育てるためには最初はある一定ティーチングの期間も必要だということですね。その上で、徐々に本人が考える範囲を広げていくことが重要でしょう。

自律的な人材が育たないという課題意識を持っているリーダー層の中には、スキルを教えることはしっかりとやっているが、考えるステージに切り替えができていない方と、一足飛びに自律性を求めて、上手く動いてくれないと感じている方と両方がいるように感じます。

一足飛びに自律性を求めている方は、まずは最低限のスキルを教えることも必要かもしれません。
逆に教えすぎて相手が指示待ちになってしまっている方には、考える力を高めるアプローチが求められることでしょう。

では、考える力を高めるにはどのようにするのか?
1つは問い続けることだと思います。私自身転職をした当初、上司から「お前は何をしたいんだ」と問われ続けました。前職ではそんなことを聞かれたことがなかったため、考えたこともなく当初は何も答えられませんでしたが、問い続けられることで考え始めるようになりました。

もう1つ、若手メンバーであれば相談に来るときには必ず自分の考えを持ってくるように促すことも良いと思います。その意見でOKがでれば、自信につながりますし、NGだった場合でも、何が違ったのかを明らかにすることで、新しい物事の捉え方や判断軸が身につくため、考える力が高まると思います。

4.自律性を高める上でのコーチングアプローチの有用性

上記を踏まえると、コーチングアプローチは非常に有効です。特に私たちホールシステムコーチングではコーチングの最初のほうで目標設定を明確にすることを重視しています。
短期的な目標だけではなく、その目標を達成した先に何が実現するのか、何を得たいのかといった長期的な目標も描きます。それによってよりワクワク感が高まり、実現したいというモチベ―ションにつながります。
また、逆にその目標を達成するためのプロセス目標や今日のコーチングで達成/実現したいことは何かも具体化します。これにより、実現に向けての行動をより具体化していくことが可能になります。

そして、当たり前のことですが、コーチングはクライアントの中に答えがある前提で、コーチはクライアントの思考が深まったり、新しい気づきを得たりできるように様々な問いかけをしていきます。このコーチングのプロセスそのものが考える習慣づけになると考えます。

まとめ

ここで述べた内容は、私の経験談をもとにしたものであり、これが唯一絶対のアプローチではありません。また、価値観も世代ごとにどんどん変わっていくため、その変化に合わせて常にアプローチも変えていく必要はあると感じています。
しかしながら、コミットメントと一貫性のような人間の本質はそれほど簡単に変わるものではないため、自律性を高める上ではコーチングアプローチは継続して有効なアプローチになるのではないでしょうか。

記事の著者

吉岡 恵Megumi Yoshioka

  • WSCコークリエイター
  • ホールシステムコーチング®認定プロフェッショナルコーチ

システムエンジニアを経て、企業向け人材育成・組織開発に従事。
次世代経営者育成を中心に、様々なプロジェクトの企画・設計・運営実績を持つ。
現在は独立し、脳科学や心理学をベースとしたアプローチで組織開発・人材育成を行うとともに、研修講師としても活動している。