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決まってない自分を受け入れる勇気 —— 中腰力のすすめ
2025.09.01
「何者かにならなくては」
「間違った選択をしたくない」
そんなプレッシャーを、今の若い世代は静かに、でも確かに抱えています。
情報過多な社会の中で、すべてにコスパやタイパを求められ、迷いや遠回りが許されにくい空気感のなかにいます。
本当に、大人になるということは“正解”に早くたどり着くことなのでしょうか?
このコラムでは、そんな問いを立てながら、「立ち止まること」「答えを急がないこと」の価値を考えます。
宙ぶらりんの状態を引き受ける“中腰(ちゅうごし)力”とも言えるその態度が、これからの時代に必要な生きる力ではないか。
そんな思いを込めて、コーチとして若い人に届けたいエールを綴ります。
*“中腰力”とは、哲学者ウィルフレッド・ビオンが提唱した「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」という考え方にも通じています。これは、「わからなさ」や「曖昧さ」をすぐに結論づけずに耐える力。いわば、“宙ぶらりんでいる力”です。
このネガティブ・ケイパビリティを身体感覚で捉えた比喩が、“中腰”という姿勢だと私は感じています。
1.答えを急ぐ社会の中で
「大きくなったら何のお仕事したい?」
「将来の夢は?」
「10年後の自分は?」
子どもの頃から繰り返し聞かれてきたこれらの問いに、うんざりしている若い人たちは少なくありません。
10歳時に小学校で行われる2分の1成人式(授業参観)で「ぼちぼち考えていきます」と宣言した子どももいます。
誰もがすぐに答えを出せるわけではないのです。
(宣言したのは我が子です。担任の先生は苦笑いしていました)
それでもなお、社会は早期決断や計画性を求めます。
キャリア教育やアントレプレナー教育の早期化は、その流れを加速させています。
「早く自分の道を決めよ」
「新しいことを始めることが善」
そんな風潮の中では、立ち止まったり、迷い続けることが“無駄”や“遅れ”と見なされがちです。
その結果、誰かにウケがいい“とりあえずの夢”を語る。
けれど本心では、「決まってない」「迷っている」そんな声がざわめいているようです。
実際、第一生命保険株式会社が全国の小・中・高校生3,000人を対象に実施した
第36回『大人になったらなりたいもの』アンケートでは、小学生男子の1位、女子の2位が「会社員」でした。
中学生、高校生になると男女とも第1位が「会社員」、続いて「公務員」が上位に入ります。
子どもたちが「安定」を求める背景には、「正解」を答えるプレッシャーが潜んでいるのかもしれません。
こうした背景には、「何者かにならなければ」という強迫観念があります。
SNSでは成功例ばかりが可視化され、「何も決まっていない自分」が取り残されたように感じてしまう。
その孤独感に寄り添える存在が、身近にどれほどいるでしょうか。
「あなたのままで大丈夫」
「答えを急がなくてもいい」
と言ってくれる大人が、もっといてほしい。
そんな願いが、若い世代の心の奥に静かに息づいている気がします。
私たち大人は、善意で『将来どうしたいの?』と問いかけます。
しかし、その問いが重なると、子どもたちは『正解』を探すプレッシャーを感じてしまうことがあるのです。
2.問いを持ち帰る力
コーチングでは、クライアントに問いを投げかけた後、沈黙の時間を大切にすることがあります。
相手の言葉が整っていなくても、答えが出ていなくても、その余白を一緒に受けとめる。
その場で言語化されなかったとしても、“問いを持ち帰る”ことの意味を信じているからです。
不確実で曖昧な時代、むしろ「すぐに答えが出ない問い」にこそ価値があります。
その問いをじっくり抱え、変化していく自分自身に耳を澄ませる。
そのプロセス自体が、未来への準備なのです。
例えば、コーチングセッションで「自分は何がしたいのかわからない」と口にしたクライアントが、
次のセッションでふとした気づきを持ち帰ってくることがあります。
言葉にならなかった思いが、日常の中でじっくりと熟成される。
そんな瞬間に立ち会えることは、コーチにとって大きな喜びです。
今は、BANI(もろさ、不安、非線形、不可解)の時代。
過去の延長では予測不能な世界に生きる私たちには、
「わからない状態でいる力=ネガティブ・ケイパビリティ」こそが、生きる力になります。
そのネガティブ・ケイパビリティを、私たちは“中腰でいる力”として体現できるのかもしれません。
地に足をつけながら、すぐに飛び出さず、でも準備はできているというしなやかさ。
コーチングでも、そんな姿勢が求められています。
3.中腰でいる勇気
効率や成果を求める社会のなかで、すぐに立ち上がって走り出すのではなく、“中腰で待つ”ことの価値は見えにくいかもしれません。
しかし、中腰には全方位への視野と柔軟性があります。
中腰でいるというのは、まだ動かない状態で周囲の状況を見渡し、次の一歩を自分で選ぶための姿勢です。
立ち上がるタイミングを見計らいながら、自分自身やまわりをじっくり観察する。
中腰には、慎重さと、どこへでも動ける自由さが共存しているのです。
AIの学習でも、ノイズや曖昧さが創造性に貢献するように、人間の“未完成さ”にも意味があります。
余白や不確実性は、決して弱さではなく、むしろ強さなのです。
自分の人生を“決めすぎない”ことで、新しい可能性が入り込む余地が生まれる。
変化の激しい社会だからこそ、完成形を焦ることなく、“問いを持ち帰る”“中腰でい続ける”ことが、
実はもっとも賢くしなやかな態度ではないでしょうか。
コーチングでは、目標を定めることとともに、
「今、この瞬間に何が起きているか?」
に意識を向けることを大切にします。
まだ進む方向が見えていなくても、問いとともにある時間が未来をつくっていく。そんな信頼があります。
まとめ
「最近の若い人は……」という言葉で語るのではなく、私はこう問いかけたいのです。
「進む方向がまだ決まっていない今って、どんな感じ?そこから一緒に歩いていこうか」
コーチングとは、「早く走らせる」ための技術ではなく、「一緒に立ち止まる」ための関係性でもあります。
人生は、今ここで“正解”にたどり着くレースではありません。
遠回りや、迷いや、静かな時間の中にこそ、ほんとうの輪郭が浮かび上がる。
そんな学びを若い人と一緒に探していくこと。
それが、私たち大人世代のコーチにできる、一つの役割なのかもしれません。
参考文献
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