AIコーチの進化! AIコーチとプロコーチのこれから
2024.07.01
2019年12月、私は「AIとコミュニケーション」に関するコラムを書きました。
あれから4年半が経過し、2024年に入った今、AIは目覚ましい進化を遂げています。現在、AIとのコミュニケーションはどのように変化し、どこへ向かおうとしているのでしょうか?
私が代表をつとめる株式会社カナメプロジェクトでは、生成AIを使った様々な実証実験を行っています。特に教育の分野に力をいれることで、AIがコーチングに及ぼす影響が見えてきました。
1.AIとコミュニケーションの現在地
GPT-4oのデモはもうご覧になりましたか?
もしまだでしたら、この動画を見てみてください。
GPT-4oに模擬面接をしてもらい、さらにフィードバックももらっています。驚くべきはGPT-4oの自然な話し方で、抑揚や感情表現など含め、ほぼ違和感がないと感じます。
また、GPT-4oは聴いて話すだけではなく、カメラで見ることも可能です。表情を読み取ったり、顔を触るクセに関してフィードバックもしていました。
なかなか凄いですが、これらの機能はChatGPTのスマホアプリとして、間もなくリリースされると言われています。
この模擬面接は一般的なやり取りでしたが、ChatGPTにコーチとしてのあり方などを埋め込むことも可能です。そうすれば、AIとのコーチングセッションができるようになるかもしれません。そんな未来がすぐそばに垣間見えています。
2.AIの進化とコーチング
AIコーチとのスムーズなコーチングセッションが実現するのは目前となっていますが、セッション以外にもAIがコーチ的に関わる場面は増えていくと思います。
東京学芸大学の教育AIプログラムで准教授もつとめる遠藤太一郎さん(ICF ACC)は、以下のように話しています。
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これまで多くの人は「フィードバックを受けながら振り返る」という機会がほぼなかったのではないでしょうか。褒められる、ダメ出しをされる、やりっぱなしにする、といったことはあるものの、評価を入れないフラットなフィードバックや、承認を得る機会は貴重だったのではと思います。
これまでこういったフィードバックを得るには、多くの場合プロのコーチなどに依頼する必要がありました。それは一般の人にとってはとてもハードルが高い行為です。
一方、AIによるフィードバックは自動で大量に導入することができます。フィードバックが身近になることで、「やってみて振り返り、気づきを学びに変えて、次のアクションにつなげる」という、学びのループがまわしやすくなります。
また、フラットなフィードバックを受けることで、メタ認知(自分が認知していることを客観的に認知する)も進むでしょう。
振り返って学びに変える習慣が、一般に大きく広がる可能性を秘めていると感じています。
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AIがコーチングやフィードバックをする時代、人間のプロコーチはどうなっていくのでしょうか。果たして職を失うのでしょうか?
遠藤さんは「AIコーチのフィードバックの体験が入口になり、コーチングに興味を持つ人は増えるのではないでしょうか。AIコーチではちょっと物足りない人が、人間のコーチに依頼するケースもどんどん増えていくかもしれません。」と話しています。
一部の人のものだったコーチングが民主化し、市場が拡大することで、ますます人間のプロコーチが必要とされる時代が来るのかもしれませんし、プロコーチとしての質が問われるようになるかもしれません。
3.非認知能力
AIの進化と合わせて改めて注目されている「非認知能力」ご存じでしょうか?
2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン博士の研究で広く知られるようになり、学力やIQなどの数値で測れる能力(認知能力)に対し、意欲やコミュニケーション力といった数値では測れない能力を「非認知能力」と定義しています。
なぜ改めていま注目されるようになったのか?
それは今、世の中の進化が早く、激動の時代、多様性の時代だからです。
「AIもまだまだだなー」と言われたころから一転、2023年後半、2024年に入り、あっという間に私たちの身近な存在になりました。
まさにそんな時代に必要なのが、自分自身を信じる、失敗を恐れず、変化を恐れず行動する、柔軟に対応する、問題解決していく、挑戦していくなど、常に新しい自分になっていく力、進化し続ける力、これらの能力が「非認知能力」です。
非認知能力の名前 | 具体的な能力 |
---|---|
自己認識 | やり抜く力、自分を信じる力、自己肯定感 |
意欲 | 学習志向性、やる気、集中力 |
忍耐力 | ねばり強く頑張る力 |
セルフコントロール | 自制心、理性、精神力 |
メタ認知 | 客観的思考力、判断力、行動力 |
社会的能力 | リーダーシップ、協調性、思いやり |
対応力 | 応用力、楽観性、失敗から学ぶ力 |
クリエイティビティ | 創造力、工夫をする力 |
コーチはまさにこれらすべての領域を扱います。
AIの進化だけではなく、世界の変化、進化の速度が上がっても、柔軟に受け入れながら私の道を進んでいく上で、コーチングを受けることは、これからの時代、リスキリング(学び直し)としても有効的でしょう。
遠藤さんは、AIによるフィードバックや、「非認知能力」の見取りにも取り組んでいます。詳しくは、こちらのnote記事をご覧ください。
4.これからのコーチに求められる力
AIがコーチングやフィードバックをする時代、私たちコーチに求められる力とは何なのでしょうか?
AI時代だからこそ、私たち人間のコーチに求められる役割は、より一層重要になる可能性があります。
AIにはない、人間のコーチならではの強み、それは「ホールシステム」や「信頼関係」「非言語」を重視したコーチングではないでしょうか。
AIは大量のデータに基づいてフィードバックを提供できますが、一人ひとりの感情の機微や状況に合わせたきめ細やかな対応は、まだ人間の得意とするところです。
人間のコーチは、クライアントの言葉だけでなく、表情、声のトーン、沈黙などから感情を読み取り、共感に基づいたコーチングを行うことができます。また、AIではカバーできない複雑な状況や、過去の経験、価値観などを考慮した上での対話が可能です。ホールシステムを使い「人を聴く」というのは、まだまだ人間の仕事なのかもしれません。
さらに、忘れてはならないのは「信頼関係」の構築です。コーチングにおいて、クライアントとの信頼関係の構築は非常に重要です。人間同士だからこそ築ける深い信頼関係は、クライアントが安心して自分の内面をさらけ出し、コーチと共創していくために欠かせません。張りぼての信頼関係ではなく、真の信頼関係が双方にあるか、信頼関係があるとはどのような状態なのかも確認できていると良いのかもしれません。
AIコーチは情報を客観的に分析し、論理的なフィードバックを提供することに長けています。手軽にコーチングを受けたり、人に言いづらいことをコーチングしてもらうことができるかもしれません。一方、ホールシステムを使って人を聴き、言葉にならない言葉をクライアントと共創していくには、まだまだ人間のコーチの存在が不可欠なのではないでしょうか。
つまりAIによるフィードバックによって、クライアントは創造のヒントを得られるかもしれませんが、一方、クライアントの限界を超えた共創には、プロコーチのコーチ力、強みでしょう。
そして、人間ならではの力をイメージするためには、プロのコーチも、コーチングを受ける人も、AIコーチのことを知ることも大切です。恐れずまずは使ってみて、人間との違いを知ることで、より自分の強みを認識することが可能でしょう。
まとめ
AI技術の進化は、私たちの想像を超えるスピードで進んでいます。コーチングの世界においても、AIはすでにフィードバックをはじめ、コーチングの一端を担える存在になりつつあります。しかし、だからといって人間のコーチの役割がなくなるわけではありません。
むしろ、AI時代だからこそ、人間ならではの強みを活かしたコーチングが求められるのではないでしょうか。ホールシステムを使って人を聴き、非言語を大切に扱い、信頼関係を構築しながらクライアントの限界を超えた共創をするといったコーチングは、なかなかAIにできるものではありません。
AIを活用しながらも、人間としての感性を研ぎ澄まし、クライアントと深く向き合い、共に成長を喜び合う、そんなコーチを目指していくのはどうでしょうか?
AIは、コーチングをより身近なものにし、多くの人々に学びと成長の機会を提供する可能性を秘めています。これからのコーチは、時にはAIを活用し、人間ならではの強みを活かしながら、クライアントと共創し、人間にしかできないことをコーチとして体現していく存在なのかもしれません。
参考文献
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