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AIコーチは人間のコーチを代替するのか?

2026.02.01

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近年、生成AI(人工知能)の進化は急速に私たちの生活に浸透し、もはや欠かせない存在となっています。
コーチングの世界も例外ではなく、「AIコーチング」という言葉を目にする機会が増えてきました。私自身も、ChatGPTなどに簡単なコーチングをお願いし、思考を整理することがあります。そんな中で、浮かんでくる問いがあります。
 
「AIコーチは、人間のコーチを代替するのか?」
 
今回はこの問いを起点に、AI時代における人間のコーチの役割と価値について考えていきます。

1.AIコーチングはどこまでできるのか?

2025年に発表された Passmore, Olafsson, Tee(2025) によるシステマティック・レビュー(研究全体の傾向を整理する分析手法)は、AIコーチングに関する研究を包括的に整理した論文です。

この研究では、次のような点が示されています。

AIコーチは、
・目標設定
・行動の振り返り
・進捗管理
・アカウンタビリティ(自主的な行動責任)の支援

といった構造化されたテーマにおいては、人間のコーチと同等の効果を示すケースがありました。特に、GROWモデル*のように枠組みが明確なコーチングでは、成果が出やすい傾向が見られます。
*GROWモデル:Goal(目標)・Reality(現状)・Options(選択肢)・Will(行動)の4段階で対話を進めるコーチング手法

また、「いつでも使える」「低コスト」「評価されない」といった特性から、心理的安全性を感じやすいという報告もあります。
 
これらの点から、AIコーチはすでに限定された目的のコーチングや、経験の浅いコーチが担ってきた役割の一部では、十分に機能し始めていると言えるでしょう。

2.AIが得意なこと、人間のコーチにしかできないこと

一方で、同じ研究ではAIコーチの限界も指摘されています。

AIが得意なこと
・パターン認識や大量の情報整理
・一貫した質問やフィードバック
・感情に左右されない中立的な対応
・24時間対応や継続的なフォロー

人間のコーチにしかできないこと
・感情を「感じ取る」共感(情動的共感)
・文化や関係性を含めた文脈の理解
・倫理的なジレンマへの対応
・沈黙や違和感、直感を扱う関わり
・本人だけでなく、周囲や環境を含めた全体への働きかけ

研究では、AIの共感は「認知的共感(理解)」にとどまり、感情をともに感じることはできないと明確に区別されています。

3.AI時代における人間のコーチの役割

人間のコーチングは、目標設定や行動計画といったわかりやすい成果だけを扱っているわけではありません。

クライアントという一人の人が、どのような関係性や環境の中で生き、働いているのかという全体像に関わっています。
 
コーチは、語られた言葉だけでなく、
・声のトーンや沈黙
・表情や身体の反応
・言葉にならない感情や違和感

といった非言語のサインを手がかりに、その人の内側で起きていることを感じ取ります。
 
また、人の変化は決して本人の中だけで完結するものではありません。
一人の気づきや選択は、周囲との関係性やチーム、組織、場の空気に影響を与えていきます。
・何が語られていないのか
・誰の視点が置き去りにされているのか
・この変化は、周囲にどんな影響を及ぼすのか

こうした見えにくい力学や相互作用は、現時点のAIが最も苦手とする領域です。
 
AIは思考を整理する相手や対話のパートナーにはなれますが、ともにその場に立ち、揺れや葛藤を引き受けながら変化を支える存在には、まだなることができません。

そして、これからの時代はAIを使うコーチ自身の倫理が問われます。
2025年4月に改定された国際コーチング連盟(ICF)の定める倫理規定には、以下の通り、4.倫理基準 2.5に、AI利用について明記されました。

2.5 Fulfill my ethical and legal obligations to my coaching client(s), sponsor(s), colleagues, and to the public at large directly and through any technology systems I may utilize(i.e. technology-assisted coaching tools, databases, platforms, software, and artificial intelligence).
自身のクライアント、スポンサー、同僚、そして一般社会に対して、直接的に、あるいは利用し得るあらゆるテクノロジーシステム(テクノロジーを利用したコーチングツール、データベース、プラットフォーム、ソフトウェア、人工知能など)を通して、倫理的・法的義務を果たします。

まとめ

「AIコーチは人間のコーチを代替するのか?」
 
この問いに対する、現時点での答えはこう言えるでしょう。
 
「AIは、人間のコーチを代替するのではなく、人間のコーチの役割を進化させる。」
 
・構造化された支援はAIが担う
・人間のコーチは、より深い関係性や意味、全体性を扱う
といった役割分担が進んでいくと考えられます。

コーチには、「人間であることの価値」や「自身のあり方(Being)」を、これまで以上に体現することが求められています。
 
AI時代だからこそ、人間のコーチが果たす役割は、より本質的なものとして浮かび上がってきているのではないでしょうか。

記事の著者

幸村 友美Tomomi Koumura

  • WSCコークリエイター
  • 国際コーチング連盟アソシエイト 認定コーチ(ACC)
  • ホールシステムコーチング®︎認定プロフェッショナルコーチ

1999年より人材・キャリア領域に携わり、2005年渡米。IT・半導体分野の新規事業開発や在米日系企業への人事支援を経験する。AIベンチャーでの活動を経て、米国シリコンバレーにて人事コンサルティングを行う CREATRY, Inc.を起業。現在は、人材アセスメントによるデータとコーチング的な対話を組み合わせ、経営者や個人に向けた組織づくりと人材育成に取り組んでいる。