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異文化コミュニケーション「アピールは苦手!? 木を見て森を見ずが伝わる?」

2019.11.01

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昨今、企業のグローバル化をはじめ、世界の様々な文化背景を持つ人たちとの交流が珍しくなくなりました。
そんな中、コミュニケーションには語学力以上に、文化の相対的な違いが影響していることへの理解が重要になっています。今回は日本人がその思考習慣からハマりがちなコミュニケーションの枠にについてまとめました。

1.全体との関係性を重んじる包括的思考傾向

次の絵を見てください。他の人にこの絵を伝えるとしたら、どう説明しますか?

緑色の水中に藻が生えていて、蛙がいるのでおそらく川の中のようです。そこに魚が5匹泳いでいます。
魚はいろいろな大きさのものがいて、二匹は遠くを泳いでいるようです。
ひょっとして、あなたはこんな風に説明を始めましたかもしれませんね。

では、上の絵を見ながら、次の説明を聞いたら、どう感じますか?
大きな魚が3匹で泳いでいます。一番大きいのは黒い魚で、二番目に大きい魚はピンクのヒレが目立ちます。

確かにそれはそうだけど、全体を網羅していない。

ここでの伝え方には正解も不正解もありません。そして、このような場面で思考の特性が現れるそうです。
前者は背景を含めて全体を伝えようとする思考、後者は一番目を引く、印象的なところを伝えようとする思考の違いがあります。
お気づきかもしれませんが、前者は私たち日本人を含めた東洋人の「包括的思考」、
そして後者は西洋人の「分析的思考」によるものです。

「包括的思考」と「分析的思考」、
認知様式の二分類について、詳しく見ていきましょう。

これは、心理学者のR.E.ニスベットが文化的・社会的・歴史的な諸要因の影響を受ける認知パターン(認知様式)の二分類として、以下の差異を提唱したものです。

包括的思考(holistic mode of thought)」
特定の刺激(対象)だけではなく、その刺激を取り囲むコンテクスト(文脈)にも広く注意を向けて、さまざまな手がかりを得ながら全体的配置・記憶を検索(照合)しながら心的表象をつくり上げていく思考のプロセスのことである。特定の対象とそれを取り巻く対象・環境のコンテクストも合わせて考えるので、心的表象の材料となるサンプルが豊富。

分析的思考(analytic mode of thought)」
さまざまな刺激の中から最も関心のある刺激(対象)だけに注意を向けて、その刺激(対象)から得た手がかりを元にして、仮説演繹的に対象の心的表象をつくり上げていく思考のプロセスのことである。その刺激(対象)以外はノイズと見なされ、無視されることが多い。

R.E.ニスベットは実験結果から、日本は対人志向性(集団協調性)の高い文化であることから包括的思考が適応的になりやすく、アメリカは個人志向性(相互独立性)が強い文化であることから分析的思考のほうが適応的になりやすいのだとしています。

そして、言語的な情報処理プロセスにおいても、西洋文化の欧米人と東洋文化の日本人(東アジア圏の人)では違いが見られるという。感情刺激的な発話(メッセージ)を提示された場合に、欧米人は感情的に話された“言語内容”そのものに注意を向けて理解しようとするが、言葉が話された状況や関係性を反映した“語調情報”にはほとんど注意を向けない。

反対に、日本人は感情的に話された“言語内容”そのものには余り注意を向けず、その言葉が話された状況や関係性を反映している“語調情報”のほうに半ば反射的に注意を向けてしまうのだそうです。

2.私は評価されない!?
求める情報が伝わっていなければ評価できないんです

さて、私は米国企業の中で社内コーチをしています。そして、クライアントから少なからず課題として出てくるのが次のような発言です。
「私はこんなに身を粉にして仕事をしていても評価が得られない。上司も会社も理解がない。見ていない。etc…」

外資企業に限らず社員の不満として出てきやすい声ではないでしょうか。先にお伝えした通り日本語と英語は認知様式でこれだけ文化背景が異なる言語ですから、報告をはじめとするコミュニケーションのフォーカスも当然異なってきます。英語の語学力ではなく、コミュニケーションの思考の方法を変える必要があるようです。

ここでクライアントのTさんのエピソードを共有します。

Tさんはコツコツと真面目に毎日膨大な量のリクエストの処理をミス一つなく、細かな例外対応も含めて行っています。他の部署から急に入った案件にも柔軟に対応していて、この仕事はもはやTさんなしでは回らないと言った状況にあります。Tさんもそれを自負しているところがあるものの、正当に評価をされていないという思いがありました。

Tさんがコーチングの目標として出してきたのは、「正当に評価されるようになる」でした。
Tさんの努力を労いつつ、こんな質問をしました。(*C:コーチ T:Tさんの略)

C:「Tさんが働くことで、この会社に一番与えているのはどんな影響ですか?」
T:「影響って…。毎日働くことで役に立っていますよ」
C:「そうですね。役に立っている。他の社員もそうですよね。他にはどうですか?」
T:「…他の人がやらない、できない仕事をこなしている」
C:「具体的にどんなことですか?」
T:「マニュアルにないアレンジをすることで問題が起きないようにしたり、・・・」
(中断)
C:「それによってうまくいったエピソードを聞かせてください」
(中途割愛)

このコーチングでは成功体験を共有してもらうことで、最終的にはプロセスフローマップを作成して報告をすることをゴールとし、それをもって報告をした結果、上司にTさんの成果が理解されたとのことでした。もちろん仕事の内容が変わったわけではなく、伝え方を変えたことで会社に評価対象として伝わったということです。

3.木を見て森を見ない方が伝わるコミュニケーション

2でお伝えした通り、語学力以上に思考の仕方でコミュニケーションも伝わります。

仮に、
欧米人を「木を見て森を見ず=分析的思考」と例えるならば、
日本人を「森を見て木を見ず=包括的思考」と言うことでしょうか。

そう言えば、学校の授業や講義、セミナーの受け方にも欧米人と日本人では差がありますね。
都度、質問をする欧米人に対して、日本人は全部を聞いてから質問をしようとすることがあります。

メールに確認したいことをまとめて箇条書きにして送る日本人に対して、アメリカやイギリスからは一番確認したいことの質問が一つ送られてきて、その後、追加質問が送られてくるためやり取りの数が多くなります。
これも分析的思考と包括的思考の違いのようです。

まとめ

最後に上の図は、二元論を図にまとめてみました。
水槽の絵の他に、人物の写真を撮る場合、住所の並び(表記)にもその差があります。

英語に限らず他言語を学んだり、使うとき、こういう文化背景の違いに視点を持つと、よりコミュニケーションが楽しくなるでしょう。もちろん語学に限らず、コミュニケーションの目的は、相手に意図したものとして伝わることです。
もし、コミュニケーションの困難を感じる時があったら、まずは相手のコミュニケーションに耳を傾けてみましょう。

記事の著者

藤生 あゆみAyumi Fujiu

  • WSCコークリエイター
  • 国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ(PCC)
  • ホールシステムコーチング®︎認定プロフェッショナルコーチ

美大を卒業しアパレル業界に就職後、渡英。そこで対話を通して学ぶアプローチに理想を見出す。日本に導入するため帰国し、日本語教員になる。30歳で教育ディレクターに就任し、対話型教育モデルをつくるため教員養成・教材開発に情熱を注ぐ。10年ディレクターを務める間にコーチングに出会い、自校に導入。2003年よりコーチとしての活動も開始。異文化コミュニケーションへの見識を活かしユニバーサルチームコーチングを実践中。