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意見を戦わせること、何も言わないこと

2026.09.01

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「昨日あんなにケンカしていたのに、もう一緒に遊んでいる」
子どものそんな姿を見て、驚いたことはありませんか?
我が家の子どもたちは、幼稚園と小学生ですが、まだ小さいこともあって、毎日のようにケンカをしています。
「これで遊びたい!」「お菓子の数・大きさ、どっちが先か・・・」。
私は仲裁にも入らず、じーっと観察していることが多いのですが、ふと気づくと、何事もなかったかのように2人で笑い合っています。
そして、折り合いがつかなさそうなときは、声かけをします。

一方、私たち大人はどうでしょうか?
会議で違和感があっても、飲み込む。言いたいことがあっても、「まあ、いいか」「自分の意見なんて」と何も言わない。
毎日ケンカをしても仲良しの子どもたち。ぶつからないように気をつけているのに、なんとなく距離ができていく大人たち。この違いは、どこにあるのでしょうか?
今回は「意見を戦わせること、何も言わないこと」について、一緒に考えていきましょう。

1.子どもはなぜ、毎日ケンカができるのか

改めて子どものケンカを観察してみると、面白いことに気づきます。
「貸して」「イヤだ」「ぼくが先」「わたしのだもん」
気持ちを全力でぶつけ合っているのに、「もう一生遊ばない!」とはなりません。なったとしても、5分後には一緒に遊んでいます。

子どもは、気持ちはぶつけても、相手の存在は否定していないのです。「イヤだ!」は言っても、「あなたがキライ」ではない。だから、何度ぶつかっても、関係は終わらない。むしろ、ぶつかって、泣いて、仲直りして。その繰り返しの中で、子どもは「自分とは違う他者」との関わり方を体で学んでいきます。

子どもにとってケンカは、関係の「終わり」ではなく、関係を深めている「途中」のように見えます。
そして、ここが大切なところですが、子どもが毎日ケンカできるのは、「ケンカしても、大丈夫」と知っているからだと思うのです。ぶつかっても、この関係は壊れない。明日も一緒に遊べる。遊びたい!その安心感と想いが、土台にあるのではないでしょうか。

2.大人はなぜ、何も言わないのか

では、私たち大人はどうでしょうか?
大人になる過程で、私たちは「ぶつかること=関係が壊れること」を、経験から学んできました。
意見を言ったら、気まずくなった。反対したら、関係がギクシャクした。言いすぎて、誰かを傷つけてしまった。
だから、言葉を選び、空気を読み、時には「何も言わない」を選びます。それは、逃げでも弱さでもなく、「この関係を壊したくない」という、相手を大切に想う気持ちの表れでもあるでしょう。
もしかしたらそれは「自分を否定されたくない」という、自分を守る防御反応の1つなのかもしれません。

でも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。
何も言わないことで守った関係は、その後、どうなっているでしょうか?

本音を言わない分だけ、会話は当たり障りのないものになります。
わかり合えた実感がないまま、少しずつ心の距離ができていく。
我慢が溜まって、ある日、小さなきっかけで爆発してしまう。
あるいは、その関係から静かに離れていく・・・。心当たりはありませんか?

何も言わないことは、関係を守っているようで、実は、関係が深まるチャンスを手放しているのかもしれません。子どもたちが毎日のケンカで関係を深めているとしたら、私たちはぶつかることを避けることで、浅いままの関係に留まっているのかもしれないのです。

3.関係を育むぶつかり方とは

とはいえ、「明日から大人もケンカしましょう」という話ではありません(笑)。
子どもたちから学べるのは、「壊れないぶつかり方」があるということです。
ポイントは2つです。

(1)人と意見を分ける
子どもが戦わせているのは「気持ち」と「気持ち」であって、「人」と「人」ではありません。
大人の意見も同じです。
伝え方を2つ比べてみます。

A:「その考えは違うと思います」
B:「私は〇〇と考えます。なぜなら、××だからです」

Aは、相手の意見(そして、もしかしたら相手自身)を否定しているように聞こえます。主語は「相手」です。
Bは、相手を否定せず、自分の意見を伝えています。主語は「私」です。
心理学者トマス・ゴードンが提唱した「アイ( I )メッセージ」も、まさにこの伝え方です。「私」を主語にすることで、相手を追い詰めずに自分の気持ちを届けやすくなるとされています。
人と意見を分けることができれば、意見に反対することと、相手を否定することは、別のことになります。意見を戦わせるとは、人と人が戦うことではなく、意見と意見を磨き合うことではないでしょうか。
そして、子どもは気持ちをその場で出すから、溜まりません。私たちも、我慢が大きくなる前に、主語を「私」にして小さく伝えてみる。「私はこう感じている」「私はこうしたい」。それは相手への攻撃ではなく、自己開示です。相手への配慮の気持ちを忘れずに伝えてみてはどうでしょうか。

(2)仲直りの力を使う
子どもは仲直りの名人です。「ごめんね」「いいよ」。シンプルですが、大人はこれがなかなか言えません。
そして実は、この仲直りこそが、「ぶつかっても大丈夫」「自分の意見・想いを伝えて大丈夫」という安心感を育てます。心理的安全性です。ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授の研究では、安心して本音や失敗を共有できるチームほど、学び合いながら成果を高めていくことが明らかになっています。
ぶつかって、修復できた。その経験が1つ増えるたびに、「この関係は壊れない」という信頼が積み重なっていきます。関係は、ぶつからないことで守られるのではなく、ぶつかっても修復できたという経験によって、深く、強くなっていくのです。

まとめ

意見を戦わせることができる関係は、実は、いちばん安心な関係なのかもしれません。「言っても大丈夫」「ぶつかっても、明日も一緒にいられる」。子どもたちは、それを毎日証明してくれています。
大人がケンカを避けるのは、優しさでもあり、恐れでもある。だとしたら、私たちに必要なのは、ケンカをしないことではなく、「ぶつかっても大丈夫」と思える関係を、家庭に、職場に、育てていくことではないでしょうか。
何も言わない優しさも、素敵です。でも、もし、大切な相手との間に少し距離を感じているなら。次は、主語を「私」にして、しまい込んでいた気持ちを1つ、伝えてみませんか。

対立は、お互いの「大切にしたいもの」が見える瞬間でもあります。次に誰かと意見や気持ちがぶつかりそうになったら、避ける前に、ちょっとだけ立ち止まって。「私は本当は、どうしたいんだろう?」「相手は何を大切にしたいんだろう?」と、自分と相手に問いかけてみてください。

そして、もしぶつかってしまったら、子どものように、自分から「ごめんね」を言ってみる。もし、うまく伝えられない、折り合いがつかないのであれば、子どもがお母さんにお互いの意見を翻訳してもらうように、周りの力を借りてみることも。
ぶつかることを避ける関係から、ぶつかっても大丈夫な関係へ。仲直りの筋肉を少しずつ育てていくと、まだ見ぬ新しい出会い、関係性が開かれていくかもしれません。

記事の著者

飯田 招子Akiko Iida

  • WSCコークリエイター
  • 国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ(PCC)
  • ホールシステムコーチング®︎認定プロフェッショナルコーチ

大学卒業後、総合人材サービス企業へ入社。
新規開拓営業、プロジェクト管理など常に多くの人と関わる業務を経験。
また、OAインストラクターとして幅広い年代の技術習得とキャリア支援に携わる。
現在は、人材育成コンサルティングや中小企業の人材に関する課題解決、組織活性化、採用支援、各種研修を行っている。