チーム力とリーダーのあり方
2026.05.01

揺れを扱えるリーダーは、人を育てられる
─適応課題・エフェクチュエーション・心理的安全性の視点から─
現代の組織やチームは、複雑性が増し、変化のスピードも速くなっています。
こうした環境の中で、チームの関係性や一人ひとりの思考や感情の動きに目を向ける姿勢がこれまで以上に求められるようになってきました。
目標は共有されているはずなのに、なぜかチームが動かない。
以前は成果を上げていたやり方が、急に機能しなくなる。
こうした違和感は、多くの現場でおきています。
本稿では、
・なぜチームは停滞するのか
・リーダーが「揺れる」とはどういう状態なのか
・その揺れをどのように成長へとつなげていけばよいのか
という問いをアダプティブ・リーダーシップと、起業家研究から生まれたエフェクチュエーションの視点、そして心理的安全性という考え方を手がかりに考えていきます。
1.アダプティブ・リーダーシップとは
アダプティブ・リーダーシップとは、正解があらかじめ用意されていない状況において、人やチームが環境に適応しながら学び、変化していくプロセスを支えるリーダーシップです。
ここで重要なのは、リーダー自身が常に「答えを出す人」であり続けるのではなく、
人が考え、試し、学ぶための状況を整える役割に立つことです。
チームのズレはどこから生まれるのか?
「チームが動かない」 多くのリーダーが、こうした感覚に直面します。
説明が足りないのか。関係性が弱いのか。もっと厳しく伝えるべきなのか。
どれを試しても変化が起きないことがあります。
それは、問題が表面的なスキルや方法論の不足ではなく、その場で扱われている課題の性質そのものにあるからです。
「技術課題」と「適応課題」
アダプティブ・リーダーシップでは、課題を「技術課題」と「適応課題」に分けて捉えます。
「技術課題」とは、解決方法が明確で、知識や手順を学べば対応できる課題です。
一方で、「適応課題」は、人の価値観や役割意識、関係性そのものが揺さぶられ、そのあり方を問い直す必要がある課題です。
ここでは、誰かが正解を示しても、人が内側で納得し、行動を変えなければ前に進みません。
リーダー自身が「正解を出せなくなったとき」
ここから、実際の現場で起こりやすい二つのケースをみていきましょう。
①「俺の背中を見て学べ」のリーダー
このリーダーは、過去の成功体験によって成果を上げてきました。
しかし、そのやり方が、現在のチームには合わなくなっていることがあります。
質問が出ない
沈黙がふえる
指示待ちになる
これは、能力不足ではなく、価値観や期待のズレが生じているサインです。
こうしたズレを安心して表現できる場があれば、違和感を対話にしていくことで関係性を更新するきっかけになります。
② 抱え込み、感情的になってしまうリーダー
責任感が強く、「自分がやった方が早い」と無意識に仕事を抱えこむ。
その結果、余裕を失い、言葉が強くなり、関係性がぎくしゃくしていく。
ここで起きているのも、単なるタスク配分の問題ではなく、リーダー自身の役割やあり方を見直す必要がある状態です。
この2つのケースは実際私が関わっている人が迷いながら進んでいかれている事象です。
2.エフェクチュエーションが示す「揺れとの向き合い方」
エフェクチュエーションは、不確実な環境の中で成果を出し続ける起業家の意思決定を研究する中から生まれた考え方です。
その前提には、「未来は正確に予測できない」という現実があります。
だからこそエフェクチュエーションでは、最初から完璧な計画や正解を求めるよりも次のような姿勢が重視されます。
・今あるものから始める
「自分の経験・強み・人脈など“今あるもの”を起点に行動する」
・失っても致命傷にならない範囲でためす
「どこまで失っても大丈夫か、で決める」
・人との関わりの中で方向性を更新する
「仲間と一緒に形をつくる」
・想定外の出来事を、新たな可能性としていかす
「起きたことをいかして、新しい可能性を生みだす」
・未来は与えられるものではなく、自ら動かしていくもの
「自分の選択と行動で未来をつくっていく」
ここで重要なのは、揺れやズレ、想定外を「排除すべきもの」として扱っていない点です。
それらは、次の意思決定を生み出すための学習と創造の素材として位置づけられています。
この考え方は、「適応課題」に向き合うリーダーのあり方と深く重なります。
答えが見えなくなったとき、リーダー自身が迷いや違和感を覚えたとき、それを急いで解消するのではなく、
「今、何が起きているのか」 「この違和感は、何を示しているのか」
と立ち止まり、状況を見直し、対話を重ねていく。
3.心理的安全性が生み出すチームの成長
こうした試行錯誤を可能にする土台として、心理的安全性という考え方があります。
心理的安全性とは、不安や迷い、違和感を表明しても、拒絶されたり不利益を被ったりしないという確信がある状態です。
わからないと言える。迷っていると共有できる。意見の違いを出せる。
こうした状態があることで、揺れやズレは対立ではなく、前進のための情報として扱われるようになります。
心理的安全性が高いチームでは、必ずしも「穏やかな空気」だけが流れているわけではありません。
むしろ、意見の違いや違和感が率直に出てくることがあります。
違いを出せるからこそ、チームは同じ前提のまま進み続けることをさけ、新しい選択肢を見つけることができるのです。
そのときチームは、問題を隠す組織ではなく、問題から学ぶ組織へと変わっていきます。
メンバーは互いの前提や認識のズレに気づき、状況を捉え直すことができるからです。
その結果、チームは同じやり方を守るのではなく、
環境の変化に応じて学び続ける力を持つようになります。
こうした環境は自然に生まれるものではありません。
リーダーが違和感や問いを受け止め、対話として扱う姿勢によって育まれていくと感じます。
正解を示すことよりも、問いを共有すること。
沈黙を埋めることよりも、違和感を言葉にできる場をメンバーと一緒に創ること。
そうした関わりが揺れをチームの成長へとかえていくのです。
そしてリーダー自身もまた、迷いや違和感を抱えながら学びつづける存在です。
その姿勢がチームの対話と成長を支えていくのかもしれません。
まとめ
チームが停滞するとき、私たちはつい「正解」や「答え」を探します。
多くの場合、それは人や関係性が変化を求めているサインです。
不確実な状況では、完璧な計画よりも、
小さく試し、メンバーとともに学びながら進む姿勢が力になります。
そのプロセスを支えるのが、コーチングです。
心理的に安全な場で揺れを共有できるとき、そこから人とチームの成長がうまれます。
揺れこそが、人とチームが育つ入口なのです。
参考文献
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